大切にしたいお客さんのことは、心をこめて“友人”と呼びたい。
信頼し、高めあうことで、いいものがうまれると信じたいから。
次は、どの“山”を目指して歩こう。どんな景色を、一緒に見よう。
ローカルイベントの世界観に、オリジナルの“人格”を与えたらー? そんな一風変わったまちおこしのブランディングに挑戦したのが、宮崎県西都市とモンブランがタッグを組んだ、謎ときイベント「トキオとふしぎな木」だ。いま “謎とき”イベントは、全国的にも注目度の高いヒットコンテンツのひとつ。同じ九州の宮崎、その西都市という小さなまちを舞台に、リアルとファンタジーが融合する異世界に生きる主人公として誕生させたのが「トキオとタム」だ。「不思議な木」「レトロな時間」「世界の謎」…実際にまちを歩いて感じたキーワードをもとに、崇城大助教授兼イラストレーター・漫画家のむらいけんたろう氏と編集者の福永あずさとともに、ブランドストーリーとキャラクターデザイン開発に着手。さらに、グラフィックを中心に、きめ細かいコミュニケーションづくりに取り組んだ。
Team Member
- ディレクター
- 竹田京司(モンブラン)
- プランナー・エディター・コピーライター
- 福永あずさ
- キャラクターデザイナー
- むらいけんたろう
- グラフィックデザイン
- apuaroot
- ウェブデザイン
- モンブラン
Client
一般社団法人まちづくり西都 KOKOKARA
田上 沙慧美さん
Tanoue
Saemi
西都市の田上さんと、むらいけんたろう准教授の研究室へ。
chapter. 01
01イベントを超えてゆく、
キャラクターの 「世界観」と物語づくり。
- 聞き手/福永あずさ
- 撮影/大塚淑子
竹田
「謎解きイベントのブランディングをお願いできないか」という話を最初に田上さんにいただいて。謎解き? それなに? みたいな(笑)。僕らモンブランとしても、これまでそっち領域(ローカルイベント)にあまりご縁がなかったこともあって、単純に面白そうだなとは思ったんです。ただ・・・
田上さん
制作期間がかなりタイトだったんですよね(笑)。
竹田
そう、たしかイベントがはじまる3カ月前とかのご依頼で。僕らはウェブサイトを3カ月でつくることはないのと、このへんの実績もほぼなかったので、お断りせざるを得ないかな…という感覚だったんですが、田上さんと最初にお話ししたとき、その異常な“熱”に惹かれたというか(笑)。あとは、このあたりの世界観づくりが得意そうな福永さんが、このプロジェクトを受けてくれるならやれるかもって一縷の期待があって。
01イベントを超えてゆく、
キャラクターの 「世界観」と物語づくり。
大好物です(笑)。ただ、その当時はまだ「ウェブ制作会社」という見せ方がメインの自社サイトだったと思うんですが、なぜイベントのブランディングのご依頼を?
田上さん
モンブランさんの実績はどれも独自性があって、ユニークで、もともと好きでした。ちゃんと細かいところにまで手をかけて、面白いものを届けようとされてるなってのが伝わります。あと自社サイト内の「web以外にも面白いことできます」って一文に惹かれて。最後の望みをかけました(笑)。
竹田
このイベントは2回目の開催だったんですよね。僕らが実際に西都市に伺ったときに、「いかにも行政がつくったって感じの内容とデザインじゃお客さんに響かないと思うんです」っていう田上さんのストレートな感覚が、「お、僕らと近いぞ!」 って思ってうれしくなって。
田上さん
ぶっちゃけ自分の仕事ボリュームは増えちゃうんですが、せっかくやるなら、中身もデザインも一新したいという思いが強くて。たとえば「謎を考える」部分とか、これまで丸ごと外部に委託していたパートを一部私たち(KOKOKARA)で巻き取ることで、骨子となるブランディングや世界観づくりのほうに思い切って予算を割けると思ったんですね。
お客さんをイベントの世界に引き込む「トキオ」というキーワードとその案内人の構想は、
最初から田上さんのなかにあったんですよね。
そこに思い切って「タム」という相棒を追加したことで、物語が動き出した。
キャラクターの完成度を高めること、
西都市というまちならではのストーリー展開をどう編んでいくかというところに時間をかけました。
竹田
最初に4人でzoom会議をしたとき、むらいさんが、PCの向こう側で、さらさらさらーって何かを描かれてたんですよ。それがいまの「トキオ」のバージョン1 とか、いろんなアイデアメモだったんですが。それが本っ当によくて。あれを会議中に共有してもらって、みんな「かわいい!」ってなりましたよね。一気にチームの心がひとつになりました。
田上さん
あれは衝撃でした。本当にかわいかったので! 一気にワクワクしました。もうギリギリだというのはわかっていたので、チームのみなさんがクリエイティブにかける時間を少しでも長くとれるように…と内部調整をがんばりました。
西都市の田上さんと、むらいけんたろう准教授の研究室へ。
chapter. 02
02夢の種火を絶やさずに、
あかるく強いコンテンツづくりを。
むらいさんは2021年から崇城大学芸術学部の准教授に着任されたんですよね。イラストレーターとしてのキャリアが長く、漫画作品も多く手がけられていますが、やっぱり私たちとしては、キャラクターデザインといえばむらいさん! ってとこがありました。今回、モンブランとはほぼほぼ初のお仕事となりましたが、プロジェクトを振り返っていかがでしたか?
むらい
イラストレーター歴は長いんですが、イラストレーターって意外と「チームで動く」ってのがないんですよ。特にキャラクターをつくるとなると、本当にひとりで生み出すって感じなので。最初から名前とか条件なんかも決まっていて、制約があるなかでの開発も多いなかで、今回みたいにクライアントさんも一緒にああだこうだ言いながらキャラクターを描けるのが、とても楽しかったんですよ。
ただかわいいとか面白いだけじゃなくて、そのキャラクター一にしっかり物語をあたえる。ちゃんとひとつひとつ、ストーリーをつけてあげるということが、どちらかというと得意だと自分でも思っているので。過程も含めて、そういう表現ができたのは嬉しかったですね。
竹田
しかし時間がなかったので、大変だったでしょう(笑)。キービュジュアル、バッグ、ポスター、パンフにブック、マップ…と制作物が多かったですからね。
むらい
でもしんどいとかきついとか、苦しいとか、そういうのを全部ひっくるめて「面白かった」ってことだと僕は思っているので、大丈夫でした(笑)。
竹田
前回は参加費をいただかない“フリー”だったけれど、今回はいただくということと。まちおこしイベントとしての全国的な謎解きブームを知って、「これはしっかり世界観をつくらないといけないな」と思いました。
田上さん
すごく面白いのが、このチームのなかに、謎解きそのものに興味がある人がいなかった(笑)。だから逆に「どうやったら興味もってもらえるのかな?」ってとこからスタートして、世界観づくりやグッズのクリエイティブに力を入れられましたよね。
それは、おっしゃるとおりです…(笑)。
私が印象的だったのが、誕生した「トキオとタム」を、今回のイベント限りで消費するキャラクターとするのではなくて。
この先も、西都のまちを牽引してくれるような存在になればいいなと思って、
一人ひとりが制作に取り組んだことだと思っています。
そして、それのリーダーは間違いなく田上さんだったんです。
竹田
僕もそう思っています。僕らはサイトをつくるとき、“見えていない(ようにみえる)ところの価値”みたいなところを掘り起こしたいという考えをもっているんですが、それって華美な装飾とか、おおげさにつくるとかではなくて。「西都の宝ものをさがして冒険をする」というトキオのバッググラウンドと、参加者が謎ときをとおしてまちをめぐることで、あまり知られていない西都の魅力を体感することにつなげられたら、と思ったんですよね。
私が一番驚いたのは、田上さんの巻き取り力。
SNS展開や+αのグッズ作成とか本当に素晴らしいなと思ったんです。提案したストーリーや背景をしっかり噛み砕いて、さらに魅力づけをしつつ、トキオとタムをどんどん走らせてくれたのが田上さんでした。
田上さん
これだけしっかり意志をもったキャラクターとストーリーが生まれたので、このイベントだけで終わらせたら絶対にもったいない! という気持ちになったんです。もうそれって“謎解き“を超えたところにあるものなんだけど。
竹田
ウェブ制作の過程でキャラクターを開発したり、そこで何かを動かしたり…そういうのは割とモンブランでは得意ジャンルだったんです。でも画面を超えて、まちに飛び出していったってとこが、今回やっぱり新しくて。そもそもストーリーBOOKとかステッカーとかここまでのプロットとか、ぜんぜん頼まれていなかったことですし(笑)。「余計なことをやってきたから自然とたどり着いた」境地でもあるんですが、なんか初めて、ここまで色々と広げてもいいんだって実感しましたね。
いつも思うんですが、モンブランのクリエイティブチームは
「余計なことをやる人の集まり」ですよね(笑)。
むらいさんの頭のなかをのぞき見たようなラフスケッチとか、その背景をさらにひろげるプランナーとか、みんな自分たちの好きなもの・得意なものをちょっとずつ出していくから、それが雪だるまみたいに大きくひろがっていく。
一言では片付けられないけど、やっぱりそれって“遊びごころ“なのかなぁって。
田上さん
それがすごく伝わりました。私はこれまで結構色んなところで仕事をしてきて、西都に来たのも少し前なんですけど。まだ色々ペースがつかめないなかで、「こんなアイデアがあるんですけど…」って最初にお話ししたときに、みなさんが「それを生かしましょう!」って言ってくださったのがすごく嬉しくて。自分のなかにしかなかった“種火”が、ぶわって燃えていきそうな予感がしたんです。
竹田
それはとてもありがたい言葉です。今回みたいに、どちらかというとウェブサイトがおまけで、ほかのコンテンツがメインみたいなプロジェクトはめずらしかったなあ(笑)。
田上さん
もちろん会社に色んなプロジェクトチームはあって、日々稼働しているんですけど、何というか。やっと、いま一人じゃないなって思いが芽生えたんです。
まちのことや、イベントのことや、色々考えることは多かったけれど、
シンプルに、田上さんの役に立ちたいという思いがどんどん加速していくという(笑)。
最後のほうは田上さんの気持ちを大事にしたいって気持ちだけでしたね。
むらい
僕は本当に、面白かった〜の一言に尽きますね(笑)。福永さんの文章と、僕の絵と、同時にアイデアをやりとりをしながら世界をひろげていって。つくった物語を喜んでもらえて。さっき「役に立つ」って話が出ましたけど、「誰かの役に立つ」っていうのは、やっぱりこの仕事の最大のモチベーションなので。それがクリエイティブで実現できて、本当によかったなぁという感じです。