大切にしたいお客さんのことは、心をこめて“友人”と呼びたい。
信頼し、高めあうことで、いいものがうまれると信じたいから。
次は、どの“山”を目指して歩こう。どんな景色を、一緒に見よう。
「このプロジェクトには、とても長い時間をかけてていねいに築かれた関係性がある」―そんな風に評価されたのが、もぐし海のこども園のブランディング。モンブランの仕事において、いまでは「わりとふつう」に見えるオリジナルキャラクターの開発は、この「もぐもぐ」から確立したのだった。もぐもぐは、園と保護者、園と子どもたちをつなぎ、保育の特色と美しい周辺環境を伝えるものがたりの“旗振り役”として登場した。ウェブサイト、絵本、各種グラフィックツール、銅像にバス、ユニフォーム…この5年で誕生したコンテンツは実にカラフル。いつしかサイトの案内役を超え、本当の意味で生き生きとした“いのち”が吹き込まれていったのは、園長をはじめとする園の先生たちが、このキャラクターを大切に育ててくれているから。あらゆるブランディングは、1枚の絵からはじまる。僕らにとってその瞬間は、とある地方都市のちいさな喫茶店での出来事だった。
Team Member
- ディレクター
- 竹田京司(モンブラン)
- サブディレクター
- 佐々木悠(モンブラン)
- プランナー・エディター・コピーライター
- 福永あずさ
- フォトグラファー
- 山口亜希子
- グラフィックデザイナー・キャラクターデザイナー
- 平野由記(ウフラボ)
- ウェブデザイン
- 安藤曜子(モンブラン)
- コーディング
- 江藤覚(モンブラン)
Client
もぐし海のこども園
福岡 英人さん
Fukuoka
Hideto
もぐし海のこども園の福岡園長と、デイキャンプへ。
chapter. 01
01「世界観」はどうつくる?
愛され、大切に育ってゆく
園のキャラクター。
- 聞き手/福永あずさ
- 撮影/内村友造
福岡園長
ウェブサイトをつくろうとなったとき、モンブランさんの実績にたどり着いて。何というか、「人間味」がある感じがしたんです。おしゃれとか、高級感とか、そういうところを推す感じじゃなくて。みなさんが考えていることと、表現しているもののズレがあまりないんだろうなって感じました。そのつくっているもののバランスが心地よかったことと、自分たち(園)がこれからやろうとしていることと似ているなと感じたことが一番ですね。話を聞いてもらえそうだと思ったんです。
竹田
最初にお会いしたのが2018年の冬。雪が降ってたんですよ。今日の撮影も雪が降ってるから、何だか感慨深い(笑)。福岡先生が園長になられてたしか4年くらい。だいぶご自分の考えが固まってこられたタイミングでご相談があったことを覚えてますね。
福岡園長
そこから予想もしないプロジェクトがはじまっていって…(笑)こんなに長いお付き合いになるとは! すべてはウェブサイトを変えたことがきっかけ。いまのこども園につながっていっているのは事実ですね。
01「世界観」はどうつくる?
愛され、大切に育ってゆく園のキャラクター。
先生がおっしゃっていることって最初からずっと変わらないんです。
そもそも、ここには牛深のすばらしい自然環境があって、絵をはじめとする情操教育を大切にされている保育があって、豊かな心を育てる食育がある。
子どもたちは自然のなかで、遊びを見つけて、自由に育つ。でもこれをストレートに伝えると、どうしてもメッセージ性が強すぎちゃう。そこは最初悩みましたね。で、「自然と子どもがとなりあわせ」というコンセプトに落とし込んで、「自然にタッチ」を表現の軸にして。
特設コンテンツでイラストを使った“自然のあそび”を表現しようとなりました。
竹田
実際に、もぐしの子どもたちが「自然のなかで遊びを見つける」というところから生まれたんですよね。
福岡園長
その表現は、ほんとうちの子どもたちらしいって感じします。前までの自分は、全部を自分で見たい、自分で何でもしなきゃ気がすまないって感じだったんですが、モンブランさんとの仕事をとおして、「思い切っておまかせするとこんな風にひろがっていくんだ」ということを実感して。いまは肩の力を抜いて、色んなことを楽しめるようになった気がします。
竹田
でも「キャラクターをつくりましょう」って提案をしたときって…ぶっちゃけ、どう思われました(笑)?
福岡園長
驚きはしました(笑)。昭和の保育園って、なんかわかりやすいキャラクターがいっぱいいた気がするんですね。自分の母親はあまりキャラクターが好きじゃなくて。だから自分も、多少は抵抗があったんです。何というか、キャラクターそのものに、園の雰囲気をもっていかれるんじゃないかと思っていた節もあって。でも食わず嫌いだった気もしますね。いまはみんなに浸透して、どんどん育っていって、やっぱりかわいいなあ…って思う毎日(笑)。園のあちこちに、先生たちが手づくりした「もぐもぐ」がいます。もぐもぐができたことは、本当にうちのひとつのターニングポイントになりましたね。
山口
ふつう子どもたちが園庭で遊ぶときって、「ここからここまでで遊びましょう」とか、環境を囲われることが多くて。ほかの園で撮影するときも、わりと制限が多いんですよ。でももぐしの場合って対自然なので、本当に自由で。撮影も、現像もね、毎回すごく楽しいんです。子どもたちが1枚1枚ぜんぜん違う表情してたりするから。ハッとさせられます。
やっぱり、ここの子どもたちをずっと「撮り続けている」っていう感覚はカメラマンにとっても貴重なのかなと。
山口
最初は「園の子どもたちをしっかり撮る!」という固定観念にしばられていたところもあったと思うんだけど。あえて声をかけたり、「これやってみて」「触って」とか誘導したり。でもいまはできる限り子どもたちと関わらないようにして撮る、というのが自分のテーマになってる(笑)。
福岡園長
いやあ、あれはすごいと思います。山口さんは絶妙に環境になじみながら子どもたちを撮ってくれる。全然その場に浮いていない。自然の一部みたいになってるんですよね。
もぐし海のこども園の福岡園長と、デイキャンプへ。
chapter. 02
02「ずっとの友だち」。
モンブランがつなぐのは、
その豊かな人間関係だ。
そもそも最初から「ウェブサイトをつくろう」と思って企画を立てていないところがありました。情報整理に逃げないというのかな。せっかく時間をかけてつくるものなので、手は抜かない。というか、先生の話を聞いていたら、絶対に手を抜けない。だからもぐしのように、こんなに長く愛されるプロジェクトになると本当にうれしいなと改めて思います。
竹田
もぐしのプロジェクトに関しては、僕らにとっても、みんなでひとつの作品をつくっている感じがありますね。世界観づくりの途中というか。自然と、最初からそういう心持ちだったんですよね。それってそもそも福岡先生や園に、それだけのポテンシャルがあったということなんですが。「やってきたことがブランディングなんだ」って気づいたのは、本当にK―ADCで賞をいただいてからというか。それで「長い時間をかけたコミュニケーション」と評価してもらえたり、「情報より情緒」の部分に気づいてもらえたり。
ウェブサイトが完成してからも、ありがたいことにグラフィックのご相談が続いたので、佐々木さんにチームに入ってもらったんですよね。
佐々木
代理店の営業を独立して、フリーランスになったタイミングでした。私が牛深出身ということもあって。それまでは、いわゆる“御用聞き”みたいなスタイルでしかお客さんの役に立てていなかったんですが、モンブランと福岡先生の関係性って、そういうことじゃないじゃないですか。どっちが上とかどっちが下とかじゃなくて。とにかくお互いがお互いを信頼していることがビシビシと伝わってきて、何ていうか、ちょっとカルチャーショックだったんですよ(笑)。私にとって、理想の関係すぎて。とにかく先生が、モンブランチームをリスペクトしていることが伝わってきて。
福岡園長
にじみ出てましたか(笑)。
佐々木
メッチャ伝わりました(笑)。私にとっては人生初体験の関係性。実はほかの仕事においても、私が目指す理想の関係性って、このもぐしのプロジェクトなんですよね。
福岡園長
竹田さん、福永さん、山口さんにはそれぞれ専門の立場から、もぐしのことを「教えてもらっている」感覚なんですよ。前までは自分で何でもやっていた部分に、みなさんの新鮮な感覚を積極的に取り入れるようになったら、「予想もつかなかった世界」がひろがっていたという感じ。そういう楽しみ方を覚えたから、ちゃんと人の話を聞くようになりました(笑)。
佐々木
私の故郷は牛深ですけど、このもぐしエリアとはすこし地域性が違っていて。とはいえ田舎ならではのしんどさや面倒くささ、なんかも地元民として多少はわかっているつもりです。でもそのなかで、先生は自分の意思をもって色んなことを発信されていると感じます。昔からの保育内容や「保育園留学」なんかのあたらしい取り組みも、いま全国的にますます注目を集めていると思うので、それは本当にうれしいなと思いますね。
先生が講演会に呼ばれたり、食育に関するコラムの執筆をされたり、どんどん活躍していかれるのは心からうれしい。
福岡園長
ありがたいことです。宮崎の平野さんはじめ、モンブランチームとの関係も長く・深くなりましたよね。平野さんは子どもさんを連れて牛深まで来てくれて。みんなでご飯食べて。あれも楽しかったなあ。
竹田
もぐもぐは、宮崎の喫茶店で生まれましたからね(笑)。福永さんが「もぐもぐはこんな子で〜こんな性格で〜」とかベラベラ喋り出す横で、平野さんがサラサラーって絵を描き出して。あれはびっくりした(笑)。最初からめっちゃ完成度高かったですもん!
佐々木
横断幕をつくったり賞状つくったり、焼印、先生たちのユニフォームまで、平野さんにグラフィック全般を担当してもらえるので、私はすごく助かっていますね。平野さんはこども関係のお仕事が多い方だけど、それでも、もぐしの仕事にすごく愛着を持ってくれているのがわかります。はじめてもぐもぐの銅像見たとき、涙ぐんでらっしゃいましたもんね。
あれは泣くよ〜! だってほんの数年前に1枚の紙から生まれた子が、リアルな姿で園庭にいるんだよ。そして子どもたちが「もぐもぐー!」って言って泥だらけの手で抱きついたりしてるんだよ。あんなしあわせな光景ないでしょ。あと私は、今年の卒園式でもしれっと泣きましたね…。なんて豊かな園なんだと。
もちろん、先生ともチームのみんなとも、「仕事」を皮切りとした付き合いなんだけど。でも、とてもそうとはいえない関係性になってきていますよね。先生の奥さんとも、お子さんとも一緒にスナックに行っちゃうし(笑)。
竹田
いやあ、ほんとですよ。常に大切に思っているというか、ずっとしあわせでいてほしい人。やっぱりこれが、僕らの、お客さんに対する共通の想いなんですよね。さあ今夜もチャゲアス歌いましょう。